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本、アニメ、映画の感想。時々まじめに物理。ごくたまに日記。

まとまっていないけど “地球外少年少女(2022)” を見た

“ファーストコンタクトもの”としての人工知能SF

Netflix でやっていたもんだから

高度に発達したAIと言うのは、現状もっとも確からしく人間の遭遇するであろう“人間に匹敵する”知性体である。少なくとも最近は。AIとの付き合い方と言うのを考え始めたのはいつかは知らないけれど、ロボットの物語で言えば「道具としての存在が知性をもって主人に歯向かう」と言うのが筆頭にきて、そこから「知性同士の付き合い方」に変わってきたわけです。

自らの物語体験でこれまでのAIとの付き合い方を思いだすと、例えばホーガンの『未来の2つの顔』では、AIは“自らに匹敵する”知性体として人間を認識することで「自らの同胞(知性ある存在)を攻撃しない」というルールの下で共存を図る、と言う物語でした。次に思い出すのは神林長平戦闘妖精雪風』。ここでは道具であるAIは我々と同様に「AIにとっての道具」としての人間が存在して、お互いに道具として有用である限りは互いに“使い合う”関係を保つことで共存を図ってきた。そして最近(つっても2018ぐらいなんだけど)なら『BEATLESS』で、そこでは“敵対の中の共存”でも“持ちつ持たれつ”の関係でもなく、きちんと道具としての高度AIとの付き合い方が議論されて、人間がやるべきことはそのファジーな意思決定能力を使ってフレーム問題という人間からみたら弱点であるその思考の枠組みを凌駕して意思決定することだ、なんていう話があったりするわけです。

こうやって振り返ってみると、かつてはAIとは“知性のある人間を脅かすもの”だったものがその解像度上げて“人間とは思考様式の違う”存在との付き合い方、と言う話になってきたわけです。

で、そうやってこの物語を振り返ってみると、この物語は宇宙から飛来した消滅したはずの高度AIと少年少女が相まみえる物語であって、そしてこの時この高度AIは“道具”としての存在ではなく、人間への啓示をもたらす存在として宇宙から飛来します。

そう、つまりその意味でこの物語は、完全に「ファーストコンタクトもの」なのです。

ファーストコンタクトものと言うのは、“宇宙から飛来した存在が人間に新たな世界を示唆する”ことに対して人間が受け止めきれるのか、だったり“人間と異なる知性体が独立して現れた時、どう接するべきなのか”を問うわけです。この地球外少年少女の高度AI『セブン』もまた、宇宙から飛来し突如として人間の目の前に現れます。かつては道具として生まれた彼が道具としてそこに現れるのではなく、人間と明確に対峙するわけでもなくただ“飛来する”。その意味で彼の物語における役回りはエイリアンであって、その意味ではET(extraterrestrial)なのです。

しかもこの高度AIは伝染性のコンピュータウィルスを持っている。しかもそのウィルスは“未来を予言する”コードになっていて、それに基づけば人類の行く末が救われる。なんて話になってくるのを見てると「こりゃアンドロメダ病原体じゃねぇか」と言う話になって、ますますファーストコンタクトものになってくるわけです。

じゃあそういう意味でのエイリアン的AIとの和解はどうなるの?と言われると、少年少女たちは幼年期を終え、彼らの啓示ものとに宇宙を目指す。もうそういう意味じゃ2001年宇宙の旅?どんどん外へと開けていく。ファーストコンタクトものとして素晴らしい。宇宙だ。でもそしたらもっと宇宙的描写が欲しかった。なぜ軌道計算のシミュレーションを画面に映して臨場感を出さない。部屋の中でだべっているだけだと動きが少なくて話についていけないパンピーは眠たくなってくるぞ。

しかしすれっからしとしては、どんどん「じゃぁ、こうした対峙するAIとの物語でやはり面白いのはフレーム問題は果たしてAIの欠陥なのかじゃね?」みたいな思考に陥って、もうそれどころじゃないわけです。なぜ人間はこうもファジーに選択できてしまうのか。なぜ局所的にはフレーム問題を克服しているように見えるのか。そして果たして”そのフレーム問題の解決方法は正しいのか”と言う問いが、人間がどうやって世界を認識しているのかを暴き、そして同時に如何に人間が漠然と価値観を抱いているのか、と言うのを明らかにしていくわけです。

そしてそれが人間の普遍的な本質を解き明かしていくのかと思うと、いや、ワクワクするじゃないですか。

終わり

と言うわけで、新年1月に何も書かないのはどうかと思ってひとまず今日見た地球外少年少女の感想をさらっと書いて、「今年もよろしくお願いします。」としたいと思います。

今年はゆっくりと映画を見つつ感想文描きたいなぁ。では。