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本、アニメ、映画の感想。時々まじめに物理。ごくたまに日記。

「映画な」映画と「劇場版な」映画

みんな違ってみんな良い

とはならんわけです。なぜなら私は“すれっからし”のオタクだから。

映画には2種類の映画があります。「映画な」映画と「劇場版」映画です。

いや正確に言えば、「映画な」と形容される性質は属性であり、もちろんいわゆる「劇場版」な映画にも「映画な」映画である場合も多々あります。

ではその種類の違いは何か。

わかりやすいのは「劇場版」映画。これらは何かしらの映画以外の映像媒体で人気を博した作品が「これならお金をかけてもっとお祭りにしよう」として作る映画です。つまりは何かしらの「映画版」という、読んで字のごとくな作品を指します。これらは大抵、もともと放映されていた映像媒体のファンに向けて作るものであり、いわば映画で放映することは「ファンサービス」に当たります。その性質上、劇場版は出自の映像媒体の延長線上に位置づけられやすく、それは商業主義的には初動段階での興行収入が保証されることを意味しており、つまりは願ってもない性質でありながら、後述する「映画な」映画足りえるには足枷と言っても過言ではありません。(もっと言えば、単に映画として作られた映画の中にも、テレビ的表現をそのまま延長して持ってきてしまう作品も、これに分類されると言っても良いでしょう。)

ではそれに対して「映画な」映画とは何か。それはずばり「映画館で作品を見せつける」ことを「自覚した」作品のことを指します。

映画館で作品を放映すること。それはつまり、「長時間シアターという密閉された空間で」「ワイドスクリーンに映し」「解像度の高い立体音響を使って」観客たちに暴力的に鑑賞させることにほかなりません。逆に言えば、これが個人宅で出来るのであれば「映画な」映画も、必ずしも映画館で見る必要はないんですが、そんな注釈をいちいち入れていたら先に進まないので今は無視することとします。 上述した3つの環境。それは通常我々が親しんでみられるテレビやディスプレイでは表現できない、或いは“許容させることのできない”表現を描写することが出きます。

その中でもひときわ重要だと私が思うのが、「周囲を映すワンカット」だと思うのです。

空間を縫うようなカメラワーク。あるいはぐるりと周囲を見渡す視線。そういった「空間を大きく」見せる描写こそ、ワイドスクリーンかつ立体音響の映画館のなせる技です。それらは結局のところ、映画館が表現できるあらゆる情報量を忠実に満たすことと同義です。

しかしこれ、実はめちゃくちゃお金がかかるのです。

広い空間を見せる。それは逆に言えば「広い空間を設計する」必要があり、それは映画という虚構を成り立たせるための設計を、カメラの画角を越えて構築しなければならないのです。これはアニメだろうが実写だろうが、変わらない大変さになります。

そして今日、私は「劇場版レヴュースタァライト」と「閃光のハサウェイ」という2つのアニメ映画を見てきたわけですが、この違いが如実に表れた2作だったように思います。

文字通り、劇場版レヴュースタァライトは「劇場版」であって、それは言わずもがな、「レヴュースタァライトを見たい人たちへのレヴュースタァライトを作る」ことに情熱を掛けた映画だった。つまりそれは、「映画を作る」ために作られた映画ではなく、あくまでもテレビ放送版のファンサービスとしての映画である、ということであって、それは必然的と言っても良いでしょう。逆にだからと言ってこの「劇場版レヴュースタァライト」が作品として評価が低くなるわけでもなく、だからと言って「テレビアニメを映画館で流しやがって」というような内容ではないことは、理性的な人間には容易にわかることかと思われます。映画館で流すため、特にこの作品は映画館のリッチな音響部分に着目して(というか少女“歌劇”なのだから当たり前なのだけど)音楽の部分を上質に、そしてインパクトあるものにしています。それだけでも映画館で見る価値は十分あると思います。

しかし、「閃光のハサウェイ」という作品と比べた時、やはり否応がなしに「映画な」映画でないことが、どうしてもわかってしまうのです。

見上げなくてはその全貌の把握できない巨大兵器の足元を、命からがら逃げる人間。立体軌道で繰り広げられる空中戦。闇の中をきらめくビーム兵器と爆撃。

その圧倒的なスケール感と立体感。それらを「ぐりぐりと」動かすカメラワークで、(そしてどうせ一瞬しか映らないにも関わらず)緻密に描き込まれた背景で描かれる、圧倒的な空間の広さ。それを余すことなく伝えるワイドスクリーンと立体音響。 閃光のハサウェイは「映画館で映画を見せること」をこれでもかと意識して、その世界を描いていた。

そして、映画館を出て、ただただこう呟いてしまいました。「俺は今、映画を見たんだ」と。

映画を見よう

友達にそそのかされてレヴュースタァライトを見に行くことになり、「どうせ遠出するなら余すことなく時間を使わねば」と何の気なしに見た「閃光のハサウェイ」。時間つぶしという当初の狙いから大きく外れて、なかなかなの傑作を見たという感じでした。これだから映画をはしごするのはやめられねぇ……!その代償はお財布が払うんだがな……!

とはいえ、来週も見に行こうかな、という気持ちになった、久しぶりに前向きになったような気がする、良い映画体験でした。ぜひ、皆さんも映画を見に行ってくださいまし。